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2005年11月掲載 風土という文化
提言30 ~藤沢周平と庄内~ 元相模原市議会議員
本間 俊三

 今日は文化の日、全国各地で様々な関連行事が開催されている。地域では公民館を中心に文化展、神社の境内ではこの日を挟んで菊花展なども行われている。
 文化という言葉には「世の中が開け進歩する様」や、「人間の精神的働きや学習で伝承されること」の意味もある。そしてこの伝承が人間の精神形成の基盤となり、その事を“風土”と言う。

藤沢周平と庄内
 彼はふるさとをこよなく愛した。作品の随所に庄内の風景や自然そして食べ物などが登場する。また登場する人物は、決してスマートではないが憎めない暖かさを秘めている。藤沢氏の作品には、私たち日本人がいつの間にか忘れてしまった何かを思い出させてくれる力がある。地位や名誉など関係のない、平凡だけど慎ましく生きる人々の姿を通して語りかけてくる。それはまさしく風土と共に生きる姿そのものである。
 また作品の多くに、登場する海坂藩は現在の山形県鶴岡市で、酒井家庄内藩の城下町として栄えた。鶴ヶ丘城の回りは、堀を挟んで家老の邸宅や重職の屋敷が配置され、その周囲を住居が取り囲み東側に内川(作品では五間川)が流れていた。彼がこの海坂藩という架空の藩から、庄内の人と風土を思い描くことが出来るのは、幼い頃から頭に焼き付いた庄内の風景と故郷に対する思いがあるからであろう。

蝉しぐれ
 その風景に現在公開中の映画『蝉しぐれ』の文四郎と初恋の人「ふく」はとてもよく調和する。彼が描いた世界は、この庄内を彷彿とさせる情景であり、この風土から育まれた登場人物であった。そして藤沢周平を生んだ庄内の“風土”こそ、広い意味での『文化』と言えるかもしれない。


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